社会上の問題
プランテーションに関連する社会的課題としては、主に土地の所有・利用権、労働・人権の問題、国際市場に依存した不安定な価格があります。
インドネシアやマレーシア東部ボルネオ島では、土地に対する権利が不明確だったり、重複していることが少なくないため、プランテーションによる大規模開発にあたって混乱が生じることがあります。開発の対象地に居住する住民や先住民族、農園で働く労働者は、情報量や資金面で企業との力関係に大きな格差があるのが現状です。
近年の開発事業では、現地の住民がこれまで利用してきた土地の活用法や収益の分配などに関して、住民自身が決定権を持つ形で開発に参加できるようFPIC(Free, Prior and Informed Consent:自由意思による、事前の、十分な情報に基づく合意)の必要性が認められています。しかし、アブラヤシや紙パルプ向けプランテーションのための土地取得を巡って、マレーシアやインドネシアで起きている多くの訴訟では、そのほとんどが開発企業や認可を与えた行政を地元住民が訴える形となっており、住民への十分な説明や彼らの合意を経ないまま、開発が進められている状況が垣間見えます。
プランテーションでは農園作業に多くの労働者を必要とするため、移住労働者を多用する傾向が見られます。例えばマレーシアの半島部では、長年に渡ってインドから来たタミル人などが労働者として雇用されてきました。近年ではバングラディシュやインドネシア、ビルマ(ミャンマー)等からの労働者も増加していますが、今でもプランテーション地域に留まるタミル系コミュニティが多くあります。また、同じマレーシアでもボルネオ島側では、インドネシアからの移住労働者が農園労働者の8~9割を占めています。一方、インドネシアにおいても、カリマンタンの農園の多くでジャワなどからの移住労働者が働いています。このように、プランテーションでは現地の労働者ではなくより安価な外部労働者を採用するのが一般的です。特に国をまたいだ移住労働者の場合、労働条件が悪くても改善要求をしにくいなどの人権・労働問題につながりやすい面があります。
また多くのプランテーション作物に言えることですが、単一作物を大量生産し国際市場に向け出荷するため、時に供給過剰などの理由で国際価格が暴落するというリスクがあります。
環境上の問題
アブラヤシは収穫後24時間以内の搾油が必要であり、広大な農地と搾油工場が求められるため、その農園面積は数千から数万ヘクタールと大規模になるという特徴があります。また主にインドネシアで拡大している紙パルプ向けアカシア・ユーカリなどのプランテーションも、効率化のために広大な土地を植林地に転換しています。
これらの急速かつ大規模なプランテーション開発は熱帯林の消失と結びついています。インドネシアやマレーシアの熱帯林は、オランウータンやスマトラトラを含む絶滅危惧種の生息地であり、世界有数の生物多様性の宝庫ですが、プランテーション開発が貴重な動植物の絶滅・生物多様性の喪失を招いています。
また、熱帯には膨大な量の温室効果ガスを貯蔵している泥炭湿地林と呼ばれる森があります。低地の湿地帯にあるこうした森林には、枯死した樹木や落ち葉などが水中に堆積したまま分解されずに泥炭として蓄積しているためその開発は大量の二酸化炭素・メタンガスを放出し、気候変動を加速させるうえ、開発によって乾燥した泥炭は深刻な森林火災をも招く可能性があります。インドネシアの温室効果ガス排出量は世界15位とされていましたが、森林減少・劣化および泥炭地の分解による排出量を含むと、中国・米国に次ぐ世界第3位の排出国になることを、2010年にインドネシア政府自らが認めています。また、プランテーションでは農薬や化学肥料を多用するため、水質・土壌汚染の問題が生じることが多く、製紙・搾油工場からの排水による河川の生態系への影響も報告されています。
プランテーションの子どもたち
マレーシアのサバ州・サラワク州では、アブラヤシ農園の主な労働力として多くのインドネシア人が働いています。夫婦で働きに来たり、農園で結婚する例もあり、農園には多くの労働者の子どもたちが暮らしています。しかし、マレーシア政府は2002年、外国人労働者の子どもたちを公立学校から排除しました。サバ州のNGO「ボルネオ子ども支援協会教育(Humana)」の調査よると、サバ州だけで約2万人のアブラヤシ農園労働者の子どもが存在し、その半分に当たる約1万人がHumana等の支援で就学していますが、残りの1万人は教育を受けられずにいると考えられています。教育の機会を奪われた子どもたちは、農園で親を手伝って働くことも少なくないため、児童労働の問題にも直結しています。Humanaでは農園を経営する企業と交渉し、農園内に労働者の子どもたちのための学校の設置を進め、大規模農園を中心に約100校の小学校がつくられました。しかし中学校は2012年に2カ所開設されたのみで、遠隔地の農園や小規模農園で働く移住労働者の子どもたちは教育の機会が得られない状況が続いています。
砂糖の島・ネグロスで起きたこと
フィリピン・ネグロス島はスペイン植民地時代に砂糖産業が発達し、農地の多くがサトウキビ畑に変えられました。農民の多くは農園労働者となり、自給のための田畑を減らし、食料は外部から購入するようになりました。1946年の独立後も、フィリピンでは農地改革が進まず、ネグロス島では土地の7割を人口のわずか3%の地主がサトウキビ農園主として独占するという状態が続きました。1980年代後半に砂糖の国際価格が暴落した際、ネグロス島の砂糖農園主が砂糖の生産を中止すると、農園労働者の多くが仕事を失い、その結果15万人ともいわれる子どもたちが深刻な飢餓に直面しました。
《参考》ALPA(Alternative People’s Linkage in Asia):ネグロス島の砂糖飢餓の救援活動を実施したネグロスキャンペーン委員会の基盤を引き継いでいる。
プランテーションに命を奪われる野生動物
人間に近い霊長類と言われるオランウータンは、現在ではボルネオ島とスマトラ島にしか生息していません。過去100年程の間にその数は90%減少し、現在の生息数は推定4万~6万頭ですが、今後20年以内に野生では絶滅するおそれがあると言われています。主な原因は森林減少による生息地の消失とアブラヤシ農園の拡大だとされています。熱帯林がアブラヤシ農園に転換されると、オランウータンは食物が不足しアブラヤシの実を食べるようになるため、農園にとっては害獣となります。インドネシアのタンジュンプティン国立公園周辺のアブラヤシ農園では、殺されたオランウータンの死体も発見されています。
マレーシアのボルネオ島では2013年1月に毒殺された14頭のゾウも発見され、アブラヤシ農園の関与が疑われています。また、インドネシアのスマトラ島に400頭しか生息していないスマトラトラも、プランテーションの拡大により、2009年から2011年のわずか2年間でその生息地が3分の1程に減少したと、グリーンピースが報告しています。プランテーション開発地の周辺ではトラと住民との遭遇事故が後を絶たず、住民がトラに襲われたり、逆に住民がトラを殺してしまうケースも起きています。