日本との関わり

3大メガバンクはリスクの高いプランテーションの
重要な資金供給者

私たちが調査機関から得た情報によれば、15行の日本の金融機関が、インドネシアもしくはマレーシアでパーム油関連事業を行っている約20社の企業に対し投融資を行っています。その中でも大きな存在なのは、やはり3大メガバンクです。特に2002年から2011年の10年間に行われた27社 のインドネシアやマレーシアの主要なパーム油企業への融資において、三菱UFJフィナンシャル・グループは世界第2 位、三井住友フィナンシャルグループは第4位の融資を行っており、パーム油産業への重要な資金供給者となっていることがわかりました。さらに、これらの27社の主要なパーム油企業への銀行融資において、過去10年間で日本は最大の資金供給国となっていると報告されています。

WI: ウィルマー、IAR: インドフード・アグリ・リソーシーズ
AAL: アストラ・アグリ・レスタリ、SD: サイアムダービー、
BA: ブミタマ・アグリ、TAP: トリプテラ・アグリ・ペルサダ、IOI: IOI

三菱UFJフィナンシャル・グループは、ウィルマー、サイムダービー、アイオーアイなどの大手企業やブミタマ・アグリ、トリプト ラ・アグロ・ペルサダなどに融資を行っています。
三井住友フィナンシャルグループも、ウィルマー、アイオーアイなどの大手とともに、ブミタマ・アグリなどの新興企業にも融資を行っています。
みずほフィナンシャル・グループでは、ウィルマー、サイムダービー、アイオーアイへの融資が行われています。

日本企業が融資している、これらの大手パーム油企業が保有しているパーム油向けの土地総面積は、四国の1.5倍=東京都の13倍程度となります。その内、四国と同様の広さが既にパーム油農園に転換されてしまいましたが、その多くが熱帯林でした。しかし、いまだ3分の1以上の四国の半分程度の面積は、まだ伐採されていません。よって、熱帯林を保全し、絶滅危惧種や泥炭地、先住民族や地域住民の権利を守り、気候変動の緩和を支援するために、日本の銀行は大きな影響力を持っています。

ウィルマー社、アイオーアイ社、ブミタマ・アグリ社などについては、問題事例としての批判が様々な団体から行われています。問題事例については、銀行への政策提言活動を行っているNGOネットワークのBankTrackが、「Banks and Palm oil(銀行とパーム油)」と題したサイトで紹介しています。

金融機関として期待される役割

金融機関として、環境的、社会的に問題があるような事業には投融資を行うことは、社会的責任の観点から問題ですし、パーム油企業は利用権や許認可の獲得のために、政府の役人や地方政府の長に賄賂などの手段を使うことなどもあるなど、ビジネスとしても大きなリスクを抱えてしまいます。金融機関がパーム油や製紙パルプ産業によるプランテーション事業への投融資を行うことは、それに伴う特有のリスクが存在しています。そうした投融資は、環境破壊や人権侵害に加担してしまう可能性が高いものであり、そうした事情を考慮した慎重なデューデリジェンスが求められます。そのためにも、現状を踏まえ、現状を改善していくことのできる投融資機関としての投融資ポリシーを策定、遵守し、企業としての社会的責任を果たしていくことが重要です。

◆参考:投融資方針に考えられる項目
・ 森林減少への対処
・ 絶滅危惧種の生息地など保護価値の高い森林の保全措置
・ 泥炭地保全への対処
・ 地域住民との土地紛争への対処
・ 先住民族の権利を尊重する
・ 労働問題(強制労働・児童労働)への対処
・ サプライチェーン透明性の評価を行うこと
・ 企業による紛争解決メカニズムの評価
・ 企業の汚職や不正行為への対処
・ 違法な操業や違法行為への対処

こうした課題への対処のためには、RSPO認証を得ているというだけでは、十分ではなく、自社で環境社会配慮を確保し対応する必要があります。
ただ、2013年末に、パーム油の最大手企業のウィルマー社は、NGOや買い手からの圧力によって、No Deforestation, No peat, No Exploitation Policyを発表して、森林減少をゼロにし、泥炭地を保全・回復し、人権侵害を行わない方針を約束しました。

>>詳しくはコチラ(英語)
http://mongabay-images.s3.amazonaws.com/13/Wilmar-Policy.pdf

こうした方針の実施を金融機関として支援するような融資方針を採用することによって、環境社会配慮を実現していくことができます。また、絶滅危惧種に危害を加えるような違法行為や、パーム油開発における贈収賄行為などの不正行為に対しては、厳正な対処を行うことも、パーム油分野でのデュー・デリジェンスとして実施すべきだと考えます。

日本の原材料調達
「紙の原料、日本はどこから買っている?」

海外からのパルプ材に頼る日本

日本国内で流通する紙の原料のうち、およそ6割は古紙が使われていますが、残りの4割は木材などから直接つくられるパルプ(バージンパルプ)です。バージンパルプの場合、パルプ材(木材チップ)とパルプ自体を合わせると、日本はその約4分の3を海外からの輸入に依存しています。少し前まではかなりの量を輸入していた日本ですが、近年は人口の縮小やペーパーレス化などで国内の需要は低迷が続いており、それに伴ってパルプ材の輸入量も減ってきています。とは言え、世界のパルプ材市場において、日本は依然として最大輸入国のひとつであり、国内の製紙産業はリスク分散のために世界中の国々からパルプ材を輸入しています。

パルプを巡る国際市場の変化

日本にとって、木材チップ(印刷紙・情報紙の主要原料)の最大供給国は、長い間オーストラリアでした。しかし2012年、広大な製紙用ユーカリ植林地を抱え、輸出国としてトップの座に君臨していた同国は、南米のチリにその座を譲りました。現在、良質で安価なユーカリ植林材がチップ市場にはあふれており、オーストラリアのチップは価格競争力という点で魅力を失いつつあります。豪ドル高の影響で価格が高止まりしている同国のチップは現在、輸出先を探すのに苦労している状況です。

一方で需要サイドにも大きな変化が起こりました。2012年、中国の木材チップ輸入量がついに日本のそれを上回ったのです。人口減やIT化の進展に伴って需要が低迷する日本とは違って、人口増加と経済成長の進む中国では、輸入チップからパルプ・紙製品へと一貫生産体制を進めていることもあり、チップ需要が旺盛です。それを支えているのは、価格の高いオーストラリアからの輸入ではなく、生産コストの低いベトナム、タイ、インドネシアといった近隣アジア諸国からの輸入です。

植林はエコ? 奪われ続ける天然林

現在、日本に輸入されるチップの多くは植林材と言われていますが、いまだに天然林材チップも入ってきています。また、植林とは言っても、天然林を大規模に伐採した上で植林地を造成する「土地転換」も数多く行われています。

オーストラリア・ニューサウスウェールズ州では、日本製紙グループ直営の現地工場によるチップ生産のため、天然林が伐採されており、このためにコアラ(2012年連邦法により同州では絶滅危惧種に指定)の貴重な生息地が奪われ続けています。この工場で生産されたチップは、紙の原料として日本に供給され、紙製品として流通しているのです。

インドネシアのスマトラ島などにある低地熱帯林や泥炭湿地林(生物多様性に富み、膨大なCO2を蓄積)も、APPやエイプリル社といった巨大製紙企業によって皆伐されており、多様な生き物の生息地を奪っているだけでなく、森林に依存した生活を送る現地の人びとにも深刻な影響を与えています。森を開墾して造成された植林地であっても、「木を植えるエコな活動」としてアピールする企業も少なくありません。そうした形で生産されたパルプを使って作られたコピー用紙や印刷紙などの紙製品が、日本で大量に消費されているのです。

「植物油脂、どこから買ってどう使っている?」

日本のパーム油消費とその使途

日本のパーム油輸入量は1960年代には10万トン未満とわずかでしたが、その後徐々に増加し、2011年には58.8万トンに達しています 。今では植物油として長年使用されてきた大豆油(41.9万トン)を抜き、その消費量は1位の菜種油(105.7万トン)に次ぐ第2位となっています。パーム油の主な使途は、マーガリン・ショートニングが36%、その他加工食品が31.7%、揚げ油などが16%と、全体の約85%を食用が占めており、残りの約15%が洗浄剤や化粧品等の非食用に使われています。

日本人1人当たりの食品としてのパーム油消費量は、単純計算で年4キロにも及びます。これだけ多くのパーム油を食べているにも関わらず、一般の消費者はパーム油を食べていることをほとんど知りません。その理由は、パーム油の大半が加工食品に形を変えて消費者に届けられているからあり、パーム油そのものを消費者が選択して使っているわけではないこと、商品の原料表示としても「植物油」という総称が用いられているからです。パーム油は私たちの身近な食品に含まれていながら、認識されることのない「見えない油」だと言えるでしょう。

パーム油は世界で最も単価の低い油であり、それが加工食品や化成品原料としてこれだけ使われようになった最大の理由です。その他にもパーム油は分別やエステル交換によって、フライ油からマーガリン、アイスクリーム、チョコレート用油脂、石鹸、化粧品、塗料原料など多用途に使用できるため、「安価かつ使いやすい油」なのです。

パーム油消費における日本の位置づけ

パーム油は現在世界で最も多く生産されている植物油であり、その生産量の8割近くが輸出されている国際商品です。パーム油の輸入国は1位インド(674万トン)、2位中国(617万トン)で、この2ヵ国で全輸入量の3割を占めています。2011年現在、日本は輸入国としては13位(58.8万トン)で、それほど大きな消費国ではありませんが、消費量は伸び続けています。

日本の輸入先

日本のパーム油輸入先は、その9割以上(53万トン)がマレーシアで、残りの約9%(5万トン)はインドネシアから輸入されています 。地域別に見ると、昔から生産量の多かった半島マレーシアからの輸入が主でしたが、近年では、地理的に近く輸送コストが低いことや搾油・精製工場などの設備の新しさ等から、ボルネオ島のサバ州からの調達が増加してきています。